遺言書について

「遺言」を辞書で調べますと次のように記載されていました。

  • 人が自分の死後、自分の財産をどのようにするかをあらかじめ書き残しておく意思表示。
  • 人が死に際し残す言葉。
  • 死後の処置について身寄りの者などに言い残すこと。

これらを文字どおり捉えますと、遺言は、書面に残しても口頭で言い残しても遺言であることに変わりはないということのようです。
とはいっても、法的に問題がないのでしょうか。

実は、書面に残す場合も口頭で言い残す場合も、民法の規定に従ってなされた遺言でないと法的な効果がないということになるのです。
では、これから法的な遺言としてどのようなものがあるのかお話します。

遺言には、普通と特別の二つの方式が定められております。
普通方式の遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言があります。
特別方式の遺言には、死亡の危急に迫った者の遺言、伝染病隔離者の遺言、在船者の遺言、船舶遭難者の遺言などまさに特別な状況にある場合の遺言です。
ここで取り上げるのは、普通方式の遺言についてです。

〇自筆証書遺言とは
〇公正証書遺言とは
〇秘密証書遺言とは
〇特定遺贈と包括遺贈
〇遺言書を作成するメリット、デメリット
〇遺言書に従わなければならないか
〇遺言書の探し方
〇遺言書が遺産分割協議後に発見された場合
〇遺言書を作成する場合にご注意頂きたい事項

自筆証書遺言とは

1自筆証書遺言の法的規定
2自筆証書遺言のメリット
3自筆証書遺言のデメリット
4自筆証書遺言が無効となるケース

1自筆証書遺言の法的規定

自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。(民法968)
さて、この自筆証書遺言ですが、従来は本文及び別紙としている財産目録の全てを自署しなければなりませんでした。
また、押印につきましても、契印などすべての押印が同一の㊞でなければなりませんでした。

しかし、2019年1月以降の作成から、大幅な改正が行われました。
ここで、改正の話をする前に契印について簡単に説明しておきます。
「契印」とは、遺言書が2ページ以上にわたる場合に、そのつながりが真正であることを証するために下図のように両ページにまたがるように押印するものです。

では、改正の主な点を紹介します。

  • 本文以外は自筆ではなく、パソコンでの作成や代筆によることが可能となりました。
    本文以外とは、たとえば、本文において「別紙財産目録の不動産」とか「別紙財産目録の預貯金」とかを記載している「別紙財産目録」などのことです。
  • 「別紙財産目録」に記載せずに、不動産の登記事項証明書や預貯金などの通帳などのコピーを添付することも可能となったのです。

2自筆証書遺言のメリット

現状の主なメリットは次のようなものです。

①いつでも、どこでも、自由に作成することができる。
いつでも、どこでもというのは、遺言書を書く場所や時間などに縛れらることがないということです。
思い立った時に作成すればいいのです。
自由にとは、用紙や筆記具、さらには押印の印にも特段の制約がある訳でもありません。
しかも、書き直しも自由です。

②証人などが必要ないので遺言内容を秘密にできる。
証人を必要としないので、遺言書の内容を他人に知られることはありません。

③保管方法に制限がないので、遺言書の存在が秘密にできる。
保管方法に特段の制限がありませんので、どこに保管しても自由です。
したがって、遺言書の存在を秘密にできます。

④費用が掛からない
自分ひとりで作成しますので、手数料等の費用は全く掛かりません。

なお、この保管方法ですが、2020年7月10日からは、法務局が「自筆証書遺言」を保管してくれる制度が始まります。
この保管制度は、単に保管だけをしてくれるのではなく、遺言書が法的に問題がないかもチェックしてくれます。
したがって、この新たな制度を利用しますと、現在行われている自筆証書遺言の家庭裁判所への「検認」も不要になるようです。

3自筆証書遺言のデメリット

①記載内容等に法的な問題があると、すべて無効となる恐れがある。
これは、自由に作成できる反面、法形式上の不備や不明確な内容等のよるトラブルの恐れがあります。

②紛失や変造、隠匿の恐れがある。
これは、保管に関する問題です。自分では見つからないと思って保管した場所が他人に知られ、変造や隠匿される恐れがあります。
特に多いのが、保管場所を失念したり、紛失したりすることです。

③遺言書の存在を知らせていないので、その後発見されにくい。
これは、遺言書の保管場所や遺言書を作成したことなどを誰にも知らせていないので、遺言書が発見されない恐れがあるということです。

④家庭裁判所への検認が必要となる。
これは、自筆証書遺言書を家庭裁判所において検認を受けなければならないということです。
この検認は遺言書の偽造、変造を防ぐためのもので、遺言書の有効、無効を判断するものではありません。
検認以後に偽造等があればすぐに判明するといった具合に、検認後の偽造等を防ぐことができるものです。
ちなみに、遺言書の検認を行わないからといって、その遺言書が無効になる訳ではありませんが、不動産や預貯金などの名義変更の際に検認をしていない遺言書では、通常、名義変更手続きができません。
したがって、自筆証書遺言を発見した場合には、速やかに家庭裁判所に検認手続きした方が良いと思います。
なお、2020年7月10日からは、法務局が「自筆証書遺言」を保管してくれる制度が始まり、この制度を利用することにより家庭裁判所の検認が不要になるようです。

以上のように、自筆証書遺言の気軽さゆえのメリットがそのままデメリットにもなるということです。

4自筆証書遺言が無効となるケース

①法形式上の問題
②内容の不備による問題
③遺言することできない問題

①法形式上の問題

自筆証書遺言は、「遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」と規定しています。
そのため、これらの要件を欠く遺言書は、無効となってしまうということです。

■遺言者が全文を自書すること。

これは、遺言者自身が遺言の内容をすべて自書(手書き)しなければならないということです。
したがって、遺言者以外の人が代筆することはもちろん、パソコンなどによる作成も許されないということです。
基本的には、以上の規定ですが、2019年1月から本文以外の「別紙目録」などは自書しなくても良くなりましたが、本文については従来どおり自書しなければ無効となります

■作成日付の記載

作成日付を正確に記載しなればいけません。しかも自書です。
この作成日付の記載がない遺言書は無効となります。

ちなみに、作成日付ですが、日付の特定ができれば有効との考え方です。

例えば平成31年1月吉日とかの記載では、吉日の日がいつなのか特定ができませんので無効となります。

一方、日付の特定ができればいいでしょうと「70歳の誕生日」とかの記載は、確かにその日は特定できるかもしれません。
しかし、誰が見ても分かる記載が望ましいと思います。

ちなみに、日付は西暦でも和暦(元号)でも構わないのです。
「平成31年1月1日」あるいは「2019年1月1日」という具合に記載した方が良いでしょう。

■氏名を自書し、押印すること

氏名については、遺言者が誰であるかを特定できればよいとの考え方のようですので、戸籍上の氏名ではなくても、芸名、ペンネームあるいは通称名や屋号でも構わないようです。

ただ、自筆証書遺言は誰にも知られずに遺言者自身が独りで作成するものですので、後々なにかと誤解などによるトラブルが生じやすい性格のものです。
そのような意味からも、やはり自身の本名を正確に記載することが望ましいと考えます。

また、押印ですが、実印でなくても日常使用している認印などでも構いません。

ただ、この印についても、本人が押印したことを明らかにしておく観点から実印の方が望ましいと思います。
ちなみに、押印もれが意外に多く、そのことだけで無効になるケースが多いようです。

基本的には、以上の規定ですが、2019年1月から本文以外の「別紙目録」などにも押印の必要があります。
ただし、その際の印は、それぞれ別々の印でも構わなくなりました。

②内容の不備による問題

■不動産の表示

不動産、特に土地ですが、登記事項証明書(登記簿謄本)に記載されているとおりに記載すべきところを住居表示を記載する事例。

〇登記事項証明書:千代田区大手町一丁目〇〇番
×住居表示:千代田区大手町1丁目1番地1号

これは、たとえば住まいである土地が複数の地番であっても、住居表示は一つであることから財産としての土地の特定ができないのです。
相続する財産は、土地、建物で住居表示(住所)ではないということです。

■預貯金等の表示

現在、銀行、郵便局などには預貯金以外の商品に投資信託や保険など様々な商品を扱っていますよね。
そのため、遺言書には、それぞれの商品の取引があることを明記しておく必要があるのです。

たとえば、「〇〇銀行の〇〇名義の取引預金の全て」とか記載した場合、預金以外の商品(投資信託とか)は記載されていない財産となります。
証券会社の取引についても同様なことが言えますね。
「〇〇証券の株式の一切」と記載した場合、「預り金」とか「株式以外の証券」などは記載されていない財産となります。
これではせっかく書いた遺言書の真意が反映されません。

以上のように、記載されていないと判断された財産は遺産分割協議対象財産となりますので、遺産分割協議を行わなければなりません。
遺産相続争いを避けるためにとの思いで作成する場合には、慎重に考えなければなりません。

③遺言することできない問題

■遺言できないこと

・「身分行為」に関わること
これは、A子はBさんと結婚しなさいとか、C子はDと離婚しなさいとかいった身分に関する内容は記載したとしても法的には無効となります。

・相続人として廃除すること
これは、特定の相続人に対して「親不幸だから」とかいったことら「相続人にしない」といった内容は記載したとしても法的には無効となります。

■記載しない方が望ましい内容

遺言書には、出来るかぎり家族への想いは記載しない方が望ましいと思います。
たとえば、特定の相続人だけに感謝の意を表するとか、その反対に特定の相続人を叱責するとかの記載です。
このような記載がありますと、感謝の意を表明されなかった相続人の反発を買い、無用なトラブルを引き起こす恐れがあります。
結果として遺産分割に支障が生じることが想定されます。

公正証書遺言とは

1公正証書遺言とは
2公正証書遺言のメリット
3公正証書遺言のデメリット

1公正証書遺言とは

公証人が遺言の法的な有効性をチェックし、作成された遺言書を公証役場で保管する制度の遺言書です。

公証人とは、裁判官、検察官、弁護士など長年法律関係の仕事していた者で、公募に応じた方の中から法務大臣が任命した方です。
公証人は、国の公務である公証事務を担う公務員で、その公証人が執務する事務所を公証役場といいます。
公証人は、全国で約500名程おり、公証役場は約300か所のようです。

2公正証書遺言のメリット

①法的な不備がなく無効となることがない。
公証人が法的不備についてはチェックしておりますので、無効となることはありません。
ただし、すべての財産を漏れなく記載しているかの判断はできません。
あくまでも、法的な形式不備のチェックに止まります。

②公正証書遺言の原本は公証役場で保管しますので、偽造や紛失の心配はありません。
ちなみに遺言者には正本が交付されます。

③家庭裁判所への検認が不要である。
検認の必要がないので、遺言書の内容を確認するのに手間取らない。

④手話や筆談など聴覚、言語機能などに障害がある方でも作成可能である。

3公正証書遺言のデメリット

①立会人が2名必要となる。
この立会人とは、遺言内容が遺言者の遺言である証人として必要になります。
立会人になれない人は、推定相続人、受遺者(遺言で財産を貰う者)及びその配偶者並びに直系血族です。
立会人になれる人を簡単に言えば、友人、知人などの第三者ですね。
ちなみに、立会人を用意できない方のために公証役場で用意できるようです。
公証役場に行く際にその点を確認してはどうでしょうか。

②立会人がいますので、遺言書の存在及びその内容が知られる恐れがある。
ただし、公証役場で立会人をお願いした場合であれば、知られる恐れは無いのではないでしょうか。

③費用が掛かる
公証役場への手数料支払いがある。

秘密証書遺言とは

1秘密証書遺言の法的規定
2秘密証書遺言のメリット
3秘密証書遺言のデメリット
4秘密証書遺言が無効となるケース

1秘密証書遺言の法的規定

秘密証書遺言は、遺言の内容を誰にも公開せずに秘密にしたまま作成し、その遺言の存在のみを公証人に証明してもらう遺言のことです。
この秘密証書遺言は、自筆証書遺言と公正証書遺言の中間的なものです。

民法では次のように定めています。
①遺言者がその証書に署名し、印を押すこと。
②遺言者がその証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
③遺言者が公証人及び証人二人以上の前に封書を提出して自己の遺言である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
④公証人がその証書を提出した日付および遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。

要は、自分で作成した遺言書を封に入れ、その封書を公証人、証人に証明してもらうというものです。
ここで勘違いをしてはいけないのが、公証役場では、遺言書の存在は証明してくれますが、その遺言書内容のチェックなどは行いません。
また、遺言書の保管もしないということです。

2秘密証書遺言のメリット

①自分で作成した遺言書を自分で公証役場で証明してもらう訳ですから、将来、その遺言書が本物かどうかなどという疑問の余地はないという点です。
②自筆証書と違い、遺言の全文をパソコンなどで作成することできます。
これは、自分で作成した遺言書を公証役場に自分が持っていく訳ですから、自分以外の者が作成した遺言書を持って来ないであろうという性善説の考えだと感じます。
③作成日付の記載漏れがあっても、公証役場で日付が記載されていれば問題はない。
作成された遺言書に作成日付が漏れていたとしても、公証役場で日付が記載されるので問題ないということです。

3秘密証書遺言のデメリット

①公証役場では、遺言の内容についての不備などのチェックを受けていませんので自筆証書遺言と同様に遺言自体が無効になる恐れがあります。
②家庭裁判所の検認を受けなければなりません。
③自分で保管しますので、将来発見されない恐れがあります。

4秘密証書遺言が無効となるケース

他の遺言書と異なる点は、遺言書に押印した印と封筒の封印が違う場合には無効となるケースです。

遺言の記載内容については、自筆証書遺言と同様です。
具体的な事例は、「〇自筆証書遺言とは」の「4自筆証書遺言が無効となるケース」をご覧ください。

特定遺贈と包括遺贈

①特定遺贈とは
②包括遺贈とは
③特定遺贈のメリット
④特定遺贈のデメリット
⑤包括遺贈のメリット
⑥包括遺贈のデメリット
⑦遺贈と死因贈与の違い
⑧遺贈を行う際の注意事項

①特定遺贈とは

特定遺贈とは、財産のうち自宅土地をAに、〇〇銀行の預金をBにといったように財産を特定しておくことです。
この特定遺贈の受遺者(財産をもらう人)は遺贈をいつでも放棄することができます。(民法986)

②包括遺贈とは

包括遺贈とは、特定遺贈のように財産を特定するのではなく、財産の割合を指定する遺言です。
例えば、全財産の50%をAにといった感じです。
この包括遺贈の受遺者(財産をもらう人)は、相続人と同一の権利義務を有することになります。(民法990)
したがって、特定遺贈の放棄の規定は適用されずに相続人としての規定に従うことになります。
そのため、遺贈の放棄をする場合には、遺贈を知った日から三カ月以内に家庭裁判所に放棄の申述をしなければなりません。
また、遺産分割協議が必要な場合にも参加しなければなりません。

③特定遺贈のメリット

  • 受遺者はいつでも放棄をすることができる
  • 遺言者は、特定の財産を特定の人に譲ることができる

④特定遺贈のデメリット

  • 結果として遺留分を侵害する場合には、受遺者自身が遺留分の減殺請求を受けることになる
  • 遺言書の作成時点から亡くなるまでの間に特定された財産が存在していない可能性がある
  • 相続人以外の受遺者は遺産分割協議に参加できない

⑤包括遺贈のメリット

  • 遺言書の作成時点から亡くなるまでの間に財産の増減などあっても対応できる
  • 包括遺贈は割合の指定であることから、具体的な分割について協議することができる
  • 遺産分割協議を行う場合に相続人以外の受遺者も参加できる

⑥包括遺贈のデメリット

  • 受遺者が遺贈を放棄するためには、遺贈を知った日から三カ月以内に家庭裁判所に放棄の申述をしなければならない
  • マイナス財産も引き継ぐことになる
  • 遺産分割協議を行う場合に相続人以外の受遺者も参加しなければならない

⑦遺贈と死因贈与の違い

遺贈は、遺言者が財産を譲る相手を決める場合、相手方の承諾などは必要としません。
譲りたい人に譲りたい財産を遺言すれば良いのです。

一方、死因贈与は、財産を譲りうける相手方と契約(死因贈与契約)を結ぶ必要があります。
したがって、相手方の承諾が必要となります。

⑧遺贈を行う際の注意事項

  • 相続財産が相続税の対象となる場合には、特定遺贈、包括遺贈を問わず受遺者が相続人ではない場合でも相続税の対象となる
  • 受遺者に相続人ではない者がいる場合、なにかと問題が生じることが多い
  • 遺留分を考慮しておく必要がある
  • 手続き面などを考慮して、できれば遺言執行者を選任しておいた方が望ましい

遺言書を作成するメリット、デメリット

①遺言書のメリットは、やはり特定の人に特定の財産をあげることができることではないでしょうか。
相続人であるかどうかに関わらず、誰にでもあげることができることですかね。

たとえば、経営者が相続人である後継者に譲るような時です。
特に法人の場合などです。
こんな事例があります。

亡くなった社長には、会社経営に関わる相続人Aと全く関わりのない相続人Bとがいました。
生前、承継者には相続人Aと考えていたため、相続人Aに会社関係を相続させる旨の遺言を残しておきました。その結果、会社を守ることができたのです。

②一方遺言書を作成したデメリットは、先ほどのメリットでの事例で説明しますと、会社の承継はスムーズに行き、会社を守ることはできました。

しかしながら、相続人Aに相続させた会社関係の財産(株式など)が遺産の大半を占めることから、相続人Bの遺留分を侵害した結果となったのです。
そのため、相続人Bから遺留分の減殺請求を受け、相続人Aは代償しなければならないこととなったのです。

結局のところ、遺言書を作成するにはメリット、デメリットはつきものだということです。
どちらを優先すべきか、十分考えて作成することが望ましいですね。

「遺言書を残せば相続争いは避けられる」などとの意見を耳にしますが、相続はそんな簡単なものではないですね。

お終いに、次のような方は、遺留分の心配もないので、遺言書の作成を考えてみてはいかがですか。

①子供さんがおられないご夫婦で、すでにお互いの両親が他界されている方。
②独身の方で、すでに両親が他界されている方。

遺言書に従わなければならないのか

遺言書があった場合でも、その遺言書に従わなければならないという訳ではありません。
ただし、相続人の全員が遺言に従わないという場合に限りできることです。
たとえば、相続人の一人だけが従わないといったことはできません。

また、受遺者の中に相続人ではない方がいる場合には、ややこしい話になります。

もし、遺言書に従わない遺産分割をお考えの場合には、ぜひ専門家を交えてご相談して頂くことをお勧めします。
必ずしも、遺言書に従わなければならないという訳ではないということを知っておいてください。

遺言書の探し方

今まで普通遺言として三つの遺言を紹介して来ましたが、この三つの遺言書はどのようして見つければよいのでしょうか。
というのも、そもそも相続人は、遺言書の内容はおろか、その存在すら知らないのが実情です。

かといって遺言書などは初めから無いと決めつけて遺産分割を行えば良いというものでもありません。

ではどうすれば良いのか。簡単に紹介だけしておきます。

①遺言検索システムで探す

このシステムは、「日本公証人連合会」が行っているシステムで、公正証書遺言の存在の有無が確認できます。
もし該当していれば、公正証書遺言がありますので手続きの上入手することができます。
また、秘密証書遺言につきましても、遺言書の作成事実のみの確認ができます。
しかし、秘密証書遺言は、その保管までを公証役場では行いませんので現物は探さなければなりません。

②自筆証書遺言の探し方

①の方法で、確認できない場合は、自筆証書遺言があるかどうかということになります。
この遺言書は、「誰にも見つからない所」という気持ちで保管場所を決めているでしょうから見つけるのは容易ではありません。
しかし、いつまでも探してばかりはいられませんので、家の中とか銀行の貸金庫、会社の金庫など心当たりを探して頂き見つけられない場合には遺言書は無いものとして進めて頂く方が良いかもしれません。

③秘密証書遺言の場合

問題は、この遺言書です。①の検索システムによって存在だけが明らかにされた場合、「遺言書はどこかにある」ことを前提に探さなければならないのです。
簡単に、「無かったことにしよう」との決断に至らないであろうことから厄介です。

遺言書が遺産分割協議後に発見された場合

自筆証書遺言や秘密証書遺言のように遺言書を見つけられずに遺産分割協議行い、その数年後に遺言書が発見された場合、既に行われた遺産分割協議はどうなるのでしょうか。

この場合の既に行われた遺産分割協議の有効、無効については、発見された遺言の内容によるとの判例があるようです。
これによりますと、発見された遺言書によって遺産分割をする方が有利になる相続人などから、既に確定している遺産分割協議に不満などがあった場合には、既に確定している遺産分割協議を無効として遺産分割のやり直しも可能だという内容です。

しかし、実際にやり直しを行うには、
①遺産分割協議後どのくらいの期間で遺言書が発見されたのか
②既に換金、処分などを行っている財産がある場合の対応

など、様々な状況に応じて判断しなければならないでしょうから、簡単な話ではなさそうですね。

遺言書を作成する場合にご注意頂きたい事項

①誰に何を相続させるかといった自身の意思は、遺言者自身が考えることです。
内容は自身で考えることですが、遺言書は、しかるべき法律に基づいて作成されていない場合には、遺言書そのものが無効となり、遺言した意味が無くなる結果を招きます。

そのためにも、遺言書を作成する前に、ぜひ法的にチェックできる専門家に相談することをお勧めします。
多少費用が掛かっても、無効となっては意味がありませんからね。
それと、自身が亡くなった後に誤りが判明しても書き直しをすることは出来ませんので。

②遺言書が複数存在した場合
遺言書が2通以上の複数存在した場合は、死亡日に一番近い日付に作成したものが有効となります。

たとえば、死亡一週間前の日付の遺言書が存在した場合は、その日以前に作成された遺言書はすべて無効ということになります。

もちろん、死亡日に一番近い日付に作成された遺言書が内容等で無効となれば、その遺言書よりも前の日付の遺言書という具合に遡ることになります。

この場合、遺言書の種類(普通遺言、特別遺言)に関係ありません。
死亡日に一番近い日付の遺言が有効となります。

③遺留分を考えておく必要がある。
相続人には、最低限の遺産を確保(相続)する権利が認められています。
これが、遺留分です。

例えば、相続人である子供のAさんとBさんの二人いた場合に遺言で全財産をAさんに相続させるといった遺言を残した場合、Bさんは何も相続できないことになります。

しかし、Bさんには「遺留分」が認められておりますので、Aさんに遺産の請求をすることができるのです。
そうなりますとお互いに手間が掛かるだけではなく、後に無用なトラブルを招く事態になりかねません。
そのためにも、遺言書を作成する場合には、必ず「遺留分」についても考えておくことが大切だということです。

なお、遺留分に関することは、「遺留分減殺請求」の項をご覧ください。

三つの遺言書につきましてメリット、デメリットをお話して来ましたが、遺言書を作成するのであれば「公正証書遺言」が良いと思います。

やはり、遺言書として法的に問題はなく、保管もしてもらえますので偽造、変造のリスクも避けられ、死亡後にその存在が明確となる点などからもお勧めです。

ちなみに、証人ですが、知人、友人ではなく、公証役場でお願いすれば、秘密が漏れることも避けれると思います。